活動報告:
-カリフォルニア州オレンジ郡の成功例から学ぶ-
家族再統合への具体的な取り組み

1. 開催概要

開催日:2016 年9 月30 日(金)宮崎市文化ホール
2016 年10 月1 日(土)難波市民学習センター
2016 年10 月3 日(月)日本教育会館
講師:ネイサン・Y・西本氏(オレンジ郡福祉庁 家族自立支援局長)
主催:一般社団法人日本ボーイズタウンプログラム振興機構
共催:US-Japan Advanced Skill Training Center、一般社団法人エンパワメント宮崎、オッジヒューマンネット、NPO 法人Com 子育て環境デザインルーム、NPO 法人親支援プログラム研究会、社会福祉法人麦の子会
後援:東京都、大阪府、和歌山県、宮崎県、全国日米協会連合会

2. 参加人数

宮崎:44名
大阪:40名
東京:31名
全会場合計:115名


3. 所属機関別参加者構成比


4. アンケート結果(総合)回答数95名


5. 参加者のコメント(一部抜粋)

  • 日本とはまったく違った制度について知ることができた。文化的に実現できなことも多いが、日本でも取り入れられることは導入されてほしい。(行政官)
  • 日米の福祉観、システムの相違がよく理解できた。特に家族分離における裁判のプレゼンスや家族再統合についての違いなど。日本は施設入所児童の平均在所期間が4年を超えている。アメリカの5-7か月というのはショッキングな数字であった。(施設のソーシャルワーカー)
  • 子どもを家族から離す方法ではなく、家族を再統合していく考え方の重要性を再認識できた。すごく貴重で良い内容の講演だったので、もっとたくさんの人に聞いてもらえるとよかったと思う。(児童指導員)
  • 経験に基づいてオレンジ郡で行ってきた福祉の歴史を含めて、現状や有効なプログラムを話してくださったので、日本と比べてシステムの違いなどわかりやすかったです。(児童相談所 ケースワーカー)
  • わかりやすい内容でとても参考になりました。宮崎県もオレンジ郡での取り組みにおいて良いものを取り入れて少しでも子どもたちの幸せ、安心、安全へつながればと思っています。ありがとうございます。(児童養護施設)
  • 日本の児童福祉の行政システムがすべて児相やケースワーカーに偏重していることをオレンジ郡の実践を通して、再認識した。20年間の支援サービスの戦略展開を知って、日本のシステムの転換の必要性を感じるし、日本の実践のデータや評価方法の必要性をとても強く感じました。民間のリソースがもっと増える仕組みもできないかと思います。(児童福祉士)
  • 日本の今の施策は子供に目が向いていないと思っています。米国のように日本は、もっと子どもたちのために費用を割いて、取り組む必要があると強く感じました。システムの見直しについては、急務だと思います。(地方公務員)
  • 大阪府の児童相談所で取り入れられそうなアイディアを幾つかもらったので実践で生かしたい。(児童相談所 心理職)
  • 家族の強みを生かす視点からスタートする。チームで(親も子もいれた)決定をすると言ったことが親と児相の関係をさらに見直す参考になった。試みてはいるがなかなか上手くいかない状況です。(児童相談所)
  • 具体的な手法が提示されていた。自分の職には直接関係する部分は少なかったが、ラップアラウンドのように地域との連携や各専門分野の人々との連携が問題解決に結びつくことが聞けてよかった。(高校教師)
  • オレンジ郡と日本を比較してしまうと取り組む姿勢、政策、そして家族再統合を目的とする意識に大きな違いがあり、とても残念な思いがあるがラップアラウンドについては私たちの日ごろの取り組みをより具体的にシステム化し、取り組んでいくためのとても良いヒントになったように思う。(児童養護施設 ケアワーカー)
  • 家族との関わり方について、家族の強みから介入するというところが私自身の視点を変えるきっかけとなった。(行政職員)

  • 6. 講演内容

    ▼ ネイサン・Y・西本氏

    「私たちは国が違いますが“児童福祉の同僚”です。今日は、皆さんに我々オレンジ郡が歩んで来た失敗例と成功例を共有できることをうれしく思います。我々の仕事は、うまくいっても周りから評価されることは少なく、失敗すればメディアも加わり、大きく叩かれるため、日々プレッシャーとの戦いです。日本とアメリカでは法律やシステムが違いますが、このような状況でも有効な手段はあるのです。成功へのポイントは、視点の切り替えです。」という言葉から始まったプレゼンテーションは、講師の自己紹介、オレンジ郡の児童福祉制度、児童福祉サービスとプログラムの内容、家族再統合への取り組みへと続いた。

    講師によると、1970年代アメリカでは、18歳になって児童養護施設や里親の保護システムから卒業した子どもが、貧困や生活・社会スキルの欠如の理由で、高校を卒業する事が出来ず、ホームレスや犯罪者となり、別のシステムへ移行する例が数多くみられ、問題となった。それまでは「子どもの安全」を第一に考え、親から子どもを分離してきたが、1979年の法改正により「子どもは親元で育てる(家族再統合)」という方針へ転換し、親元に返すまで(家族再統合)18か月という時間制限が設定された。

    1999年にはオレンジ郡で児童養護施設や里親に措置される子どもの数は約8000人だったが、家族再統合支援戦略が功を奏し、2013年の終わりには約4000人にまで減少し、2016年現在では2000人を切っている。その結果オレンジカ郡の家族再統合率は50〜60%と高い。様々な支援戦略を行ってきたが、その中でも「ラップアラウンド」と「TDM (Team Decision Making)」は効果的だったという。行政単独で行う支援には限界があるため、様々な民間サービスと連携し、業務を委託・管理する事で、家族再統合を進めている。

    プレゼンテーション後半には「ラップアラウンド」の内容紹介があった。ラップアラウンドは、支援する「家族の強み」に着目し、子どもやその家族を地域ベースで支援する方法である。ラップアラウンドを用いチームで支援する事で、ソーシャルワーカーの負担が減り、家族が自分自身で将来を考え導くことができるようになる。地域ベースでチーム支援を行うため、行政の支援期間が終了した後も、繋がっている地域の支援団体がフォローする事ができる。さらに「家族の孤立」を防ぐ事ができ、家族再統合が安定し長く続くことになる。

    最後に講師から「日本では法律やシステムが違うため、我々と同じ事をするのは難しいが、まずは身近な小さな問題から解決する事ができると思う。Plan(計画)し、 Do (実行)し、Study(評価)して、 Act(再び実行)してみてください。」というメッセージが伝えられ、講演は終了した。

    ▼ 地域の取り組み

    民間団体による開催各地での取り組みが報告された。一例を挙げると、宮崎では、家族再統合に向けて、初めて民間に支援業務の委託を行った。現在その支援活動はスタートしたばかりであるが、官民が一体となり、チームで連携して支援業務を行っていることが紹介された。


    7. 次回開催への取り組み

    上記で紹介した参加者からのコメントからもわかるように、今回の講演は日本の家族再統合を進めていく上で有効であったと考える。来年は「家族再統合」をメインテーマとし、国内/海外から専門家を招聘した「シンポジウム」の開催を予定している。シンポジウムでは、「虐待防止」「発達障害児支援」などをテーマとした分科会を行う予定。当団体では、行政と民間がチームとなって「家族に寄り添う支援」の実現に向けて、活動を続けて行きたい。


    8. 講演写真